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日本を愛したスパイ

NHK取材班 著

日本放送協会 昭和54年
値段:2,500円 売切

 昭和九年、ベーブ・ルースを筆頭とする全米選抜野球チームが来日する。その中にモリス・バーグという一人のユダヤ系の捕手が居た。
 戦後になって、奇妙な噂が流れる。それは、彼が実はアメリカのスパイであり、来日の際に築地の聖路加病院の屋上から撮影した16ミリフィルムが第1回東京空襲(ドゥーリットル爆撃)の際に参考にされたという噂だった。

 この本は、その噂を追いNHK特集”日本を愛したスパイ”として放映された番組における取材を再編集したものである。

 様々な関係者の証言から、やがて色々な事実が判明する。彼が語学の天才でプリンストン大学を優秀な成績で卒業したこと。戦時中OSS(CIAの前身)に所属し、敗戦間際のイタリアに単身乗り込み三人の科学者救出したこと。枢軸国の会議に潜入しマンハッタン計画に推進に影響する重要な情報を得たこと。

 だがそれらの華々しい事実と一緒に浮かび上がるのは、ユダヤ系であるが故にLoner(孤独好き)でありつづけ、優秀であるが故に運命の手に翻弄され、ついに居場所を見つけることが出来なかった男の横顔である。

 ドキュメンタリーは、小説と違い事実と事実の溝を埋めることが出来ない。ドキュメンタリーに徹すれば徹するほど溝は広まる。しかしそれゆえに読み手は、その溝の見えない闇を想像することが出来る。

 学者として将来を嘱望されながら何故野球選手を続けたのか。何故OSSに協力するようになったのか。戦後、OSSでの活動に対する受勲をなぜ断り、世捨て人のような生活を続けたのか。そして広島に原爆が落ちたその日、彼は何を想ったのか。

 戦前二回の来日をし、日本好きを公言してはばからなかった”日本を愛したスパイ”は、戦後二度と日本の土を踏むことはなかった。
 

東京都公安委員会許可第301020205392号 書籍商 代表者:藤下真潮